
「実践・ソフトウェアのISO9000」(日本能率協会マネジメントセンター:新倉忠隆著)の内容から抜粋しています.(1994年版のISO9001の解説です.出版当時のTickITにも対応しています.)
4.5 文書及びデータの管理
品質システム構築のポイント
- 文書及びデータの管理に関し,どの程度の管理を行っていればISO9001の要求事項を満たしているかの見方は,審査機関,ひいては同じ審査機関の審査員でも人によりまちまちである.すべての管理対象文書に番号を付け,配付・回収の管理をせよ,と暗に要求する審査員もいれば,台帳があって実際に使用されている版が適切な版であれば全く問題にしない審査員もいる.文書管理は組織が大きいほどコストがかかるので注意が必要である.
- 開発計画書や品質計画書など,プロジェクト毎に作成する重要な文書でISO9001の要求で盛り込むべき内容が規定されているものについては,文書のひな形を作成して利用することを奨める.その際,注意すべきはひな形の位置づけである.単に開発計画書や品質計画書を作る際の目安であって,使用自体が任意であり,文書の適切性が実際に作成された文書で審査されるのであれば,ひな形を文書として管理する必要はない.一方,ひな形自体にいろいろな手順が記述されていたり,内容の変更に制限を設けているような場合にはひな形が手順書としての目的も持つことになり文書としての管理が必要になる.
- ソフトウェア開発標準のように重要な文書は,改訂されるとプロジェクトの計画のよりどころとなっていた文書がなくなってしまうため,プロジェクト毎に旧版を残そうとする傾向がある.これをなくすには,文書中または別の文書として詳細な改訂履歴を記述しておけばよい.
- 文書の承認者及び審査者などを文書中に記述しておくことによって,改訂の際に間違いなく審査・承認が行える.
- 文書は,重要度や使用される範囲を考慮して管理方法を定めることを奨める.以下にその例を述べる.
- 1)重要文書/組織横断的文書の場合(品質マニュアル,開発標準,開発計画書など)
- 配付先,審査者,承認者を文書中に記述.表紙に文書名,発行日,文書番号,版数,発行者などを記述.改訂理由,改訂内容,改訂箇所を明示.各ページに文書番号,ページ番号,及び最終ページの表示.
- 2)組織(又はプロジェクト)内文書(ライブラリー取扱い手順書,プログラミング規約など)
- 表紙に文書名,発行日,承認者,適用範囲の記述及び承認印.各ページにページ番号.ホッチキス綴じ.
審査に関連して
- 文書は,無効な版を使っていると不適合になるが,使用すべき版が利用できなくても不適合になる.例えば,ある課に品質マニュアルが一冊しか配付されておらず,その品質マニュアルを課長が保管していて,その部下が必要な時に(課長が不在という理由で)取り出せないような場合や,改訂されたことが知らされていないような場合である.
- 可能な場合には変更の性質を明確にすることが要求されているが,可能でない場合は殆どないと考えるべきである.例えば,文書が入力した情報に基づいてコンピュータシステムにより自動的に作成されてしまうような場合には,可能ではないと言える.
2000年版では
1994年版では文書は台帳または同等の管理手順によって管理することが求められていたが,この要求事項はなくなった.従って,小さな組織では,文書のバインダーに最新の版だけを綴じておいて,台帳は作らず,必ずそのバインダーを利用するといった管理が可能となった.
以上
1995,2001 新倉忠隆