ここでは,2000年版のISO9001で明確な要求事項となった顧客の知的所有権の保護に関してのヒントを提供します.(但し,知的所有権だけが新たに追加されたのではなくて知的所有権は顧客の財産の例として取り上げられています.)

知的所有権保護の言い出しっぺは日本?

本当のところは

 実は本当のところはわかりません.下の解説は,裏話として読んでいただきたいと思います.

解説

 1997年12月にISO9001をソフトウェアの開発に適用するためのガイドであるISO9000-3の改訂版が制定されました.その国際規格案の審議の過程で,日本の委員会からソフトウェアの場合には,不正コピーや内容の改ざんなどによる価値の損傷を製品の損傷とみなそうという提案をし,国際的に賛同が多く一度受け入れられてしまいました.しかしながら,以下のような経緯で日本から提案を取り下げ,最終的には,”価値の損傷”については規格の中に盛り込まれないことになりました.この価値の損傷を防ぐということは,とりもなおさず知的所有権を保護することなのです.

【経緯】
 価値の損傷を製品の損傷とみなすという考え方が国際的に受け入れられたという報告がISO9000-3の改訂を担当している国内委員会でされたときに,私はソフトウェアの分野でのみそのような解釈をすることに強く反対しました.それは,以下の理由によります.

最終的には,日本の提案を取り下げることになり国際規格にも内容は盛り込まれなかったのですが,そのことがもしかしたらTC176の委員の一部が”知的所有権の保護”を意識するきっかけとなっているかも知れません.(あくまでも勝手な推測です.)

知的所有権の保護

 ISO9001の2000年版では,顧客所有物には知的所有権が含まれることが明確になりましたが,組織の所有物については特に知的所有権に関する要求事項が出てこないのは妥当な線といえるでしょう.もともと知的所有権は法律で保護されており,お客様の知的所有権を保護することは組織として当然のことです.また,自社の製品の知的所有権の保護をISO9000の活動に取り込むか否かは組織が決めればよいのではないでしょうか.

以上

2001 新倉忠隆
2001 新倉システムコンサルティング